「視覚障がい教育Q&A」 見えにくさによる困難さを抱えている子どもはいませんか? 「見えにくさ」について「知り」、「気づき」、徳島視覚支援学校に「つなげて」 ください。 徳島視覚支援学校 ◆このリーフレットを活用するみなさんへ◆   普段私たちが得ている情報の大半は、視覚から得られたものであると言われて  います。   目で見ることで、大変多くの情報が手に入ります。自ら得ようとして獲得した情報も  あれば、“いつの間にか”“知らず知らずのうちに”“繰り返し” 目に入ることで  獲得した情報もあるでしょう。   対して、視覚障がいのある、つまり「目が見えない」「目が見えにくい」人々は、  目で見て情報を得ることが難しくなります。そのことが要因となり、学習や生活に  おいて困難さを抱えていたり、一般的な方法や教材・教具の使用が難しかったりする  場面が多々あります。   そこで、視覚障がい教育においては、「見えない」「見えにくい」状態でもできる  方法を 身につけたり、視覚障がいを補う視覚補助具や教材教具を使用したりする  ことができるような指導支援をすることが要となります。   徳島視覚支援学校は、視覚に障がいのある幼児児童生徒の教育を専門的に担う  県内唯一の特別支援学校です。本校における視覚障がい教育や、地域の  視覚障がい児・生に対するセンター的機能を実践する中で培ったノウハウの一部を  共有したいと思い、このリーフレットを作成しました。   この度は、「目が見えにくい」弱視児童生徒をターゲットに、具体例を挙げながら、  Q&A 方式で作成しました。身近な子どもたちの様子から気になる項目に目を通して  いただき、視覚障がい教育の充実や本校との連携の契機としていただければ幸いです。 目次 ◆ 徳島視覚支援学校について … 1 1 見えにくさを理解しよう … 3 2 視覚障がいのある子どもたちの学びの場について … 7 3 指導・支援の実際 ~子どもたちへの関わりのポイントQ&A~  Q1:見えにくさのある児童生徒への指導全般において、大切にしなければならない    ポイントにはどのようなものがありますか。… 8  Q2:視覚障がいのある児童生徒が使用する教科書等には、どのようなものが    ありますか。… 9  Q3:見えにくさを補う視覚補助具や便利グッズには、どのようなものがありますか。    … 10  Q4:遠用弱視レンズや近用弱視レンズについて教えてください。… 11  Q5:活用できるICT機器やアプリには、どのようなものがありますか。… 12  Q6:「読む」ことについての支援には、どのようなものがありますか。… 13  Q7:「書く」ことについての支援には、どのようなものがありますか。… 14  Q8:計算や作図の支援には、どのようなものがありますか。… 15  Q9:調理や裁縫の活動の支援には、どのようなものがありますか。… 16  Q10:実験や観察の場面の支援には、どのようなものがありますか。… 16  Q11:体育や部活動等での支援には、どのようなものがありますか。… 17  Q12:歩行に関する支援には、どのようなものがありますか。… 18  Q13:視覚認知面での困難さに対する支援には、どのようなものがありますか。… 19  Q14:本人の障がいの理解を進める支援には、どのようなものがありますか。… 20  Q15:学校行事における工夫や配慮事項には、どのようなものがありますか。… 21  Q16:進路指導は、どのように進めればよいでしょうか。… 22  Q17:徳島視覚支援学校の職業学科で取得できる資格について教えてください。… 23 4 相談・支援の実際 ~視覚障がい教育のセンター的機能の紹介~ … 24 5 視覚障がい児・者も楽しむことができるスポーツの紹介 … 25 6 関係機関の紹介 … 26 7 指導に役立つサイト … 26 8 参考文献 … 27  ※このリーフレットは、弱視や読み書き障がいに配慮したデザインである 「UDフォント」を使用しています。 ◆徳島視覚支援学校について 【特色】   徳島視覚支援学校は、視覚に障がいのある幼児児童生徒のための学校です。  視覚障がいに対する専門的できめ細かい指導のもと、一人一人の能力や可能性を  最大限に伸ばす取組を行っています。   また、徳島県下全域の視覚に障がいのある乳幼児から成人を対象に、見え方に関する  相談や支援も行っています。 【設置学部・学科】(P23 Q17参照)   幼稚部、小学部、中学部、高等部普通科、高等部手技療法科、高等部専攻科  手技療法科・鍼灸手技療法科を設置しています。   それぞれの学部や学科では、視覚障がい幼児児童生徒に必要な保育・教育を行って  います。幼稚園、小学校、中学校及び高等学校に準ずる教育とともに、重複障がいの  ある幼児児童生徒への個に応じた保育・教育も行っています。高等部手技療法科及び  高等部専攻科手技療法科・鍼灸手技療法科では、あん摩マッサージ指圧師、はり師、  きゅう師の国家資格取得に向けた専門教育を行います。 【施設設備】   本校は、平成26年度の新校舎建設に際し、視覚障がいがあっても安心安全に  学校生活を送ることができる施設設備作りに努めました。視覚障害者誘導用ブロック  (点字ブロック)や音声誘導設備、視覚障がいがあっても安全に移動ができる廊下や  階段等を整えるとともに、校内ルールとして、「廊下や階段の右側通行」「物の  置き場所の固定化」等も徹底しています。   また、通学が困難な児童生徒のために、敷地内に寄宿舎を設置しています。 【コラム:環境の工夫(教室名の表示)】  本校では、子どもたちの実態に合わせて様々に教室を知らせる工夫をしています。  ・突き出し看板と同じ表示を入口扉の目線の高さに貼る。  ・各教室入口扉に色と手触りの異なる表示を貼る。  ・トイレ入口に突き出し看板と同じ表示を目線の高さに貼る。 1 見えにくさを理解しよう 【ものを見るしくみと見えにくさ】   視覚情報は、眼球から視神経を通って脳に伝わることで認識されます。   その、眼球や視神経、脳に先天性または後天性の病気や事故等で不具合が生じると、  「目が見えない」「目が見えにくい」という状態になります。不具合が起きた箇所や  度合いによって、それぞれの見えにくさは異なります。   見えにくさには様々なものがあり、大きく7つに分類されます。この見えにくさは、  ひとつだけ生じることもあれば、複数の見えにくさが重なることもあります。  ※眼球断面図   私たちの目は、光が網膜の上に像を写し出すようにピントを調節しています。   ピントを合わせるために、毛様体が水晶体の厚さを調節しています。   ・近くのものを見るとき・・・水晶体を厚くする→毛様体筋が緊張   ・遠くのものを見るとき・・・水晶体をうすくする→毛様体筋がゆるむ 【様々な見えにくさ】   ①ピンボケ状態    ピントが合わず、ぼやけて見える状態   ②混濁状態    すりガラスを通して見るような状態    光が乱反射し、まぶしさを感じる状態   ③暗幕不良状態    眼球に入る光量の調整がうまくいかず、まぶしさを感じる状態   ④照明不良状態    眼球に入る光を感じる細胞に不具合が生じ、暗く感じる状態   ⑤振とう状態    眼球が揺れるために見たいものも揺れてしまい、見えにくくなる状態   ⑥視野の限定状態    中心部分しか見えなかったり周辺部分しか見えなかったりと、視野が制限されたり    欠けたりしている状態   ⑦暗点    見えない部分がある状態 【見えにくさに気づく】   本人が、「見えにくい」と訴えることもありますが、年齢や発達等の状況に  よっては、見えにくさがあっても、十分に周囲に伝えることができない場合が  あります。例えば、集中力が続かない、文字が正しく書けない等の本人の抱える 困り感には、様々な要因が考えられます。   以下の「見えにくさに気づくためのチェックポイント」を参考にして、子どもたちが  見せる行動の背景に、「もしかしたら見えにくさがあるのかもしれない。」と  いうことを、周囲の人々が気づき、医療等につなぐことが重要になります。 【見えにくさに気づくためのチェックポイント】  ・目を細めてものを見る。  ・ものを見るときに必要以上に近づけて見ようとする。  ・首を傾ける、あごを上げる、片目を閉じる等の見方をする。  ・視線が外れる。目線が合わない。横目使いで見る。  ・瞬きが多い。目をよくこする。  ・まぶたが下がっている。目を開けづらそうにする。  ・まぶしがる。(外に出るとまぶしがる。)  ・薄暗くなると見えにくそうにする。  ・よく転んだりつまずいたりする。  ・ものを探したり見つけたりするのが苦手。  ・手先が不器用。  ・絵本や文字に興味をもたない。  ・大きさ、量、距離、場所等のイメージがもちにくい。  ・集中力が続かず、落ち着きがない。  ・文字の読み間違いや読み飛ばしが多い。  ・字形を整えるのが難しく、枠や行から文字がはみ出す。  ・黒板の文字をノートに写すのが難しい。  ・めもりを読み取るのが苦手。  ・文章を読むのに時間がかかる。  ・図形をとらえたり、漢字を覚えたりするのが苦手。  ※上記は、困り感の要因のひとつとして、視機能の問題が考えられるものです。   視機能の問題ではなく、発達や他の認知的な問題が要因となることもあります。 【見えにくさを把握するために】   何らかの見えにくさがある場合、まずは眼科を受診し、適切な治療や眼鏡や  コンタクトレンズによる矯正を行うことが大前提となります。診断や正確な視機能の  把握は医療機関で実施します。   ただし、年齢や発達段階により医療機関での受診や一般的な視力検査の実施が難しい  場合、各検査を受けるための練習が必要な場合があります。対象児の実態を踏まえ、  家庭や在籍園・校で検査実施に必要な内容を練習しておくことで、医療機関での  検査実施がスムーズになることがあります。本校が実施する教育相談では、どのような  練習が必要か  アイデアを提供したり、実際に練習したりする支援も行っています。   眼科での検査結果をもとに、学習環境や生活場面を整えるために、より詳細な  見え方を把握するために行うのが「教育的視機能評価」です。使用する教科書や  視覚補助具の選定、教室環境の整備等において必要不可欠な情報となります。   対象児の実態に応じて視標を使い分けたり、答え方を工夫したりしながら「教育的  視機能評価」を実施しています。 ※見えにくい子どもたちに対する支援の流れ  Step 1「気づく」  ・視力測定(スクリーニング)  ・行動観察(保護者、教員)  ・本人からの訴え  Step 2 「眼科受診」  ・視力検査  ・他各種検査  ・診断  ・治療  ・眼鏡やコンタクトレンズによる矯正  ・必要な補装具(義眼や遮光眼鏡等)の処方  ・経過観察  Step 3 「相談・支援」  ・教育的視機能評価    遠距離視力    近距離視力    最大視認力    視知覚発達検査 等  ・学習・生活環境の整備  ・必要な補助具の選定と活用するための練習  ・拡大教科書の選定  ・教材教具の工夫  ・支援する上での工夫や配慮事項についての相談  ・障がい理解  ・関係機関との連携 【視力の把握】   現在の視力や今後の視力の変化を把握したり、必要な視覚補助具の選定をしたり  するために、遠距離視力(視距離5mでの視力)、近距離視力(視距離30㎝の視力)、  最大視認力(見やすい位置まで近づけて見た視力)を測定します。   対象者の状況に応じて、一般的に使用されるランドルト環の他、絵視標や縞視標等も用います。 【視野の把握】   視野計を用いた簡易的な視野の把握、対座法(検査者と被検査者が向かい合って  視標を見ることで、互いの視野を比較する方法)による大まかな視野の把握等を  行います。 【最適読書文字サイズの把握】   読書に最適な文字サイズを把握するための検査を実施します。拡大教科書や  自作教材の文字サイズを決定する際の参考となります。 【色の見分け方の把握】   必要な場合は、色覚のスクリーニング検査を実施し、そのタイプを把握して学習や  生活場面での配慮事項や工夫を考えます。 2 視覚障がいのある子どもたちの学びの場について    視覚に障がいのある子どもたちの学びの場には以下のようなものがあり、それぞれ  基準が定められています。(※この場合の「視力」は、眼鏡やコンタクトレンズ等で  矯正した視力をいいます。) 【通常の学級】 【通級による指導(弱視)】→徳島視覚支援学校に設置されています。   拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度の  もので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの 【弱視特別支援学級】→徳島県には、小学校、中学校合わせて約10校程度が設置されて  います。   拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの 【視覚特別支援学校】→徳島県には、本校1校のみ設置されています。   両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のものの  うち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は  著しく困難な程度のもの  就学先の選択においては、本人の状況と本人や保護者の思いを大切に、これまで 支援してきた関係者も含めた話し合いをすることが大切です。本校がこれまで 関わってきた事例や、それぞれの学びの場を選択した場合の想定等の情報を提供し、 ともに考えていく支援をしています。本校以外に就学した場合も、センター的機能を 活用して継続して支援をしていきます。 ※3人の児童生徒のイラスト ・生まれたときから見えにくさがあるけど、小学校がいいかな、視覚支援学校が  いいかな…。 ・通常の学級で学習しようかな…。弱視特別支援学級で学習しようかな…。 ・だんだん見えにくくなってきた…。このままでは学習が難しいな。視覚支援学校に  転校しようか…。 3 指導・支援の実際  ~子どもたちへの関わりのポイントQ&A~ Q1:見えにくさのある児童生徒への指導全般において、大切にしなければならない   ポイントにはどのようなものがありますか。  弱視児の見え方は個人差がとても大きく、天候や体調、明るさ等の環境によっても 見え方が変わったり、少し離れると、相手の表情や動きが十分に見えていなかったり することもあります。  見えにくさを理解してもらえない経験が重なると、「どうせわかってもらえない」と あきらめてしまうこともあります。  見えにくさのある児童生徒への指導においては、はっきりと見える環境や配慮によって 見る意欲を高めつつ、段階的に視覚補助具を活用し自分なりに工夫していく場面を 設定し、見えやすい環境を自分で整えていく力を養っていくことが大切になります。 ※整備された環境や配慮 → 見る意欲や工夫する力の育成 → 自分で環境を整える力 【見えにくい子どもたちにも伝わるように】  ・声をかけられたことがわかるように、名前を呼んで話しかけ、名のる。   「〇〇さん、△△です」  ・指示語は使わず、具体的な表現で伝える。   ×「そこにあるよ」 〇「1m前にあるよ」  ・全体を説明してから、具体の内容を説明する。   例:「今日は〇〇をします。始めに△△、次に□□をします。」 【弱視児が自ら学ぶ力を身につけるために】  ・見て理解するための時間を十分に確保する。  ・見やすい環境や教材を整え、視覚活用のメリットを実感させる。  ・見えにくいながらも、さまざまな工夫をして見ようとする意欲を育てる。  ・視覚以外の触感覚や音声情報を併用して学習する方法を身につける。 【弱視児が自己理解を深め、必要に応じて周囲に支援を求めることができるように】  ・自分自身の見えにくさについて学ぶ。  ・どのようなことが困り、どのような支援があればできるのかを自分自身で知り、   説明することができる力をつける。  ・必要に応じて援助依頼をする力を身につける Q2:視覚障がいのある児童生徒が使用する教科書等には、どのようなものが   ありますか。  検定教科書、拡大教科書、点字教科書等があります。また、これらと併用できる ものとして、音声教材やPDF版拡大図書(教科書)があります。 【拡大教科書】   拡大教科書は、各教科書会社から発行されています。小学校と中学校の  拡大教科書は、各発達段階を考慮し、2~3段階の文字サイズの中から選択することができます。   文字が大きくなって読みやすくなる一方、レイアウトが変わることで全体像が  把握しにくくなったり、冊数が増えて持ち運びや管理に苦慮するという面もあります。拡大教科書の文字サイズを決める際には、最適読書文字サイズを判断する検査を  実施することが大切です。また、将来を見据え、視覚補助具を併用することも考慮して  いきましょう。 【音声教材】   通常の検定教科書で使用される文字や図形等を認識することが困難な児童生徒に  向けた教材です。  文部科学省から委託を受けた団体等が製作し、読み書きが困難な児童生徒等に、  原則として無償で提供しています。   パソコンやタブレット端末、音声ペン等を活用して使用します。教科書の内容を  音声で読み上げるほか、読み上げる箇所のハイライト表示や文字の拡大縮小をはじめ、  教材によってさまざまな機能・特色があります。児童生徒の困難の状況に合った  音声教材を選択することが可能です。 【PDF版拡大図書(教科書)】   視覚障がい等のある児童生徒の見やすさや使いやすさを考慮して作成された、  PDF形式の拡大図書(教科書)です。また、配付される教材や卒業後の継続利用も  考慮し、一般的なデジタルデータや自作教材の取り込みも容易となっています。  ※音声教材やPDF版拡大図書(教科書)は、複数の製作団体から提供されており、  使用する端末やOS等も様々です。対象者の実態や使用可能な端末等を考慮して選択する  必要があります。   各製作団体のHPに教材サンプルや使用方法が掲載されています。 Q3:見えにくさを補う視覚補助具や便利グッズには、どのようなものがありますか。  それぞれの見えにくさや困り感に応じて、様々なものを活用することができます。 視覚障がい児・者向けに作られたものだけでなく、一般に市販されているグッズの活用も 有効です。 複数のものを使いこなす力を身につけておくことで、今後の選択肢が広がります。 ※視覚補助具や便利グッズ  ・拡大読書器  ・音声読み上げ装置  ・書見台(傾斜机)  ・遠用弱視レンズ  ・近用弱視レンズ  ・遮光眼鏡  ・目盛りが見やすい定規  ・罫線が見やすいノート  ・音声時計、音声計測器  ・色のついたまな板  ・お金を管理する道具  ・調味料入れ  各視覚補助具や便利グッズの実物は、本校や、徳島県立障がい者交流プラザ 視聴覚障がい者支援センター等でご覧いただくことができます。  ※徳島県立障がい者交流プラザ視聴覚障がい者支援センター   【HPアドレス】http://www.kouryu-plaza.jp/sc-center/ Q4:遠用弱視レンズや近用弱視レンズについて教えてください。 【遠用弱視レンズ】(P10 Q3参照)  ・遠くにあるものを見るための視覚補助具です。双眼鏡が片方だけになったような   「単眼鏡」というものを使用することが多いです。  ・遠用弱視レンズ(以下、「遠用レンズ」)の使用場面としては、「教室で   学習する際に黒板の板書を見る」「校外学習や遠足の際、近づいて見ることが   できないものを見る」「遠くの看板や高い場所にある掲示物を見る」「集会等   前で話している人の表情を見る」等があります。  ・本人の視力と使用場面に必要な視力を踏まえて、遠用レンズの倍率を決めます。  ・遠用レンズの使用には練習が不可欠です。見たいものに合わせて遠用レンズを   のぞき、ピントを調節する、広い範囲の中にある視対象を効率よく把握する等、   段階を踏んで練習していきます。 【近用弱視レンズ】  ・近くにある小さな文字や図形等を読んだり、拡大しながら文字を書いたりするための視覚補助具です。   手で持って使うタイプ、紙面において使うタイプ、1行ずつ拡大するタイプ等、   さまざまなものがあります。  ・近用弱視レンズ(以下、「近用レンズ」)の使用場面としては、「辞書や図鑑等の   小さな文字を読む」「ふりがなを読む」「ものさしやはかり等の目盛りを読む」   「グラフや表、地図に書かれている文字を読む」等があります。  ・本人の視力と使用場面に必要な視力を踏まえて、近用レンズの倍率とタイプを   決めます。  ・近用レンズの使用にも練習が不可欠です。タイプによって使用方法やこつが   異なります。   小さな文字や図形を読む課題に敢えて取り組み、実際に必要となる場面に   備えておくことが大切です。 【複数の選択肢をもっておきましょう。】   見えにくさを補う視覚補助具として従来から使われてきた遠用レンズや近用レンズに  加え、ICT機器の発達・普及により、スマートフォンやタブレット端末等が活用  できるようになってきました。   それぞれに強みと弱みがあります。様々な状況に応じて使い分けることが  できるよう、複数の視覚補助具を使いこなす練習をしておくことが大切です。 Q5:活用できるICT機器やアプリには、どのようなものがありますか。  アクセシビリティ機能や音声読み上げソフト、各種アプリ等を合わせて 使用することで、一般的なパソコンやタブレット端末、スマートフォン等を様々な用途で 活用することができます。また、見えにくさがあっても使用しやすいように工夫された 機器もあります。 【アクセシビリティ機能】  ・アイコン、カーソル、マウスポインタ等のサイズや色の変更  ・画面背景色の設定や反転表示  ・指定した箇所の拡大  ・ポインタやカーソルの場所の表示 【音声の活用】   「音声読み上げソフト」は、画面に表示されている内容や入力している文字情報等を  音声で読み上げるソフトです。文書やメールの作成、ホームページの閲覧等をする際に  目が見えない人が使用するだけでなく、目が見えにくい人にとっても助けとなります。  スマートフォンや検索エンジンに搭載されている、操作や検索したいことを音声で  伝える機能も大変有効な手段です。 【アプリ】   視覚障がい者用にたくさんのアプリが作成されています。   タブレット端末やスマートフォンのカメラ機能での拡大も有効ですが、より明るく  拡大することができるアプリや、全体像を表示しながら部分的に拡大することができる  アプリもあります。   色の見分けに困難さがある場合に色名を文字で表示してくれるアプリ、信号が  変わったことを知らせてくれるアプリ、名称を知りたいものをカメラで写すと音声で  教えてくれるアプリ等もあります。   自分の見えにくさを他の人に伝えるときに使用するアプリもあります。 Q6:「読む」ことについての支援には、どのようなものがありますか。 【学習環境の整備】(P10 Q3参照)   弱視児の実態に応じて、本人と相談しながら、視力や視野、まぶしさへの感度等を  考慮し、教室の座席位置を検討します。また、書見台を活用したり、手元を照明で  明るくする等して見えやすい環境を整えます。 【自作プリントやテストの作成】(P6 「最適読書文字サイズの把握」参照)   視覚補助具の活用技術や学習の目的を考慮した上で、レイアウト(字間や行間)に  配慮し、効率よく読むことができる文字の大きさや字体等を把握した上で教材を  作成することが大切です。誰もが使いやすい工夫がなされている字体と言われる  UDフォントも選択肢の一つとして考えるといいと思います。   また、字体だけではなく、㎡や32(3の二乗) 、H2O(エイチツーオー)等の  上付きや下付きの数字の字体や大きさにも配慮する、テスト等では、問題文中の下線や  記号を強調する、空欄を( )ではなく、四角い空欄にする等の工夫によって、  見やすく探しやすくすることができます。 【便利グッズの活用】   文字や行を読み飛ばしたり、読んでいる箇所を見失ったりと、行を追って読むのが  難しい場合は、定規を行に当てて読んだり、薄い色のクリアファイルや下敷きを本や  プリントの上に置いて読んだり、行幅に合わせたタイポスコープを自作して使ったり  することで読みやすくすることもできます。 【様々な教科書の活用】   読みやすさに合わせた文字の大きさの拡大教科書を活用したり、デジタルデータを  活用したりすることもできます。PDF版拡大図書(教科書)タブレット端末等を  活用する場合は、起動から操作、終了までの手順を練習し、自分で操作できるように  なることが大切です。各教科書の利点を理解した上で使い分けましょう。 【音声の活用】   視力の低下や読むことへの疲労等を考慮した場合、音声教材や音声読み上げ装置等を  活用することも一つの方法です。一般的に販売されているボイスレコーダーを活用する  こともできます。また、「サピエ」というサイトは、様々な本等を音声データで  提供しており、登録すると無償でデータを得ることができます。 Q7:「書く」ことについての支援には、どのようなものがありますか。 【新しい文字の学習】   弱視児は、見えにくさにより、点画の過不足や、はねやとめ、はらいが十分でない  等の書き誤りが見られることがあります。  ・ワークで薄い線をなぞる場合、線が薄ければ線を濃くする  ・初見時に覚え間違えないよう、本人にとって見えやすい大きさや位置で提示する  ・画数の多い漢字や起筆がわかりにくい漢字は、言葉で唱えながら覚える等して、   言語情報を効果的に活用する  ・漢字を分解し、その組み合わせで指導する  ・たくさん書かせるのではなく、正確に書くことを重視する(量より質)等の   工夫があります。定着を図るためには練習が必要ですが、見えにくさからくる  疲労にも留意しつつ、バランスを考慮して指導することが求められます。 【ノートの工夫】(P10 Q3参照)   弱視児によっては、一般的なノートでも支障がない場合もありますが、罫線が薄い、  細い等の理由で見えにくさを感じている場合もあります。見えにくさの程度や  学習状況を考慮して、本人と相談しながら適したものを検討することも大切です。  ・市販の弱視用ノート(罫線の太さや色、マスの大きさに配慮したノート)の活用  ・自作ノートの作成(罫線が見やすく、マス目の大きさが適度なものをデータ作成して   印刷し、ファイリングする) 【筆記具の工夫】  ・鉛筆は、Bや2B等の濃いものが、線を太く書くことができます。  ・シャープペンシルも有効であり、Bや2B、4Bで0.7mm~0.9mm程度の芯を試して   みるのもよいでしょう。  ・消しゴムも様々な種類がありますが、消しかすがまとまるようなものが   扱いやすいです。また、消したい部分以外の範囲を消してしまう場合には、先が細い   消しゴムもよいです。 Q8:計算や作図の支援には、どのようなものがありますか。 【計算】  〈計算ミスの例〉   ・数字を写し間違える。   ・小数点を見落とす。   ・桁を取り違えたり、同じ桁に数字を重ねて書いてしまう。   ・桁を揃えられない。   見えにくさに配慮し、筆算のしくみを理解しやすくするために筆算プリントを  自作する際には、数字を書き込む位に枠を記すことで、位置がずれないようにする等の  工夫があるとわかりやすいです。また、導入期には、筆算用の計算枠を自作して、  操作的に仕組みを学ぶことも有効です。 【作図】(P10 Q3参照)  〈用具の工夫〉   ・定規のめもりの線をなぞって太く記す。   ・5cmごとに定規に色を薄くつけたり、ホワイトボード用の細い    ラインテープを貼ったりする。   ・定規が滑りにくいように、裏面に滑り止め(ビニルテープ、滑り止めシート等)の    素材を貼る。   ・定規の「0」の位置に穴をあけておき、コンパスを使用して長さを測る際に、    針を固定することができるようにする。  〈使いやすい用具の選定〉   ①定規・三角定規・分度器    ・めもりや数字がはっきりしているもの(白黒反転しているものもあり)    ・めもりが色づけられているもの    ・めもりが凸状に浮き上がり触ってわかるもの    ・定規の端の「0」部分にストッパーや切り欠きがあるもの(鉛筆を0の位置に     止めることができる)    ・定規の端が「0」から始まるもの 等   ②コンパス    ・濃い鉛筆やペン等、見やすい太さの筆記具を装着できるコンパス    近用ルーペを使用しながら定規等を使う練習が必要な場合もあります。 Q9:調理や裁縫の活動の支援には、どのようなものがありますか。 【調理】(P10 Q3参照)   安全に作業できるよう包丁の置き場所を決めます。食材とのコントラストを考えて、  色のついたまな板を活用することができます。また、一押しで定量を出すことができる  液体調味料入れや、傾けると一定量の粉末の調味料が出る容器もあります。  音声計量器や音声キッチンタイマー等も必要に応じて活用できます。 【裁縫】   セルフ針や糸通し器等を活用することで、針に糸を通しやすくなります。  手縫いでは、運針の練習に、目の粗い布地と先が鋭利ではない太めの針を用いると縫  いやすくなり、縫う場所にガイドとして細いテープを貼っておくと、見通しが  もちやすくなります。ミシン縫いでは、市販されているガイド用のマグネットを  貼ったり自作して貼ったりすることで、まっすぐ縫うことができます。また、布地  自体にもガイドとして色つきのテープを貼ると、手ざわりや色を手がかりに縫うことも できます。 Q10:実験や観察の場面の支援には、どのようなものがありますか。  観察においては、何を目的に観察するのか、そのためにどこに着目して観察するのか、 ねらいを明確にして観察することが大切です。手触りや厚み、長さや幅、傾きや温度、 においや音等、観察するものの特徴を言葉で具体的に表現し整理すること、 また細かな部分だけでなく全体の特徴をとらえることも大切です。  実験では、一連の作業の流れがわかるよう実際に器具を触って確認しながら全体の 説明を聞くと見通しをもつことができます。実験器具は、透明で割れやすいものも 多いため、箱に入れる、置き場所を決める等して安全に扱うことができるように します。溶液の色の変化をとらえる実験では、色の濃いものは背景に白いボードを、 色が白みがかったり薄かったりするようなものでは背景に黒のボードを置くようにすると 見やすくなります。  目を近づけて見る必要がある時は保護めがねを装用することが大切です。また、 近づくと危険なものを見る場合は、離れた場所から遠用レンズやタブレット端末で 拡大して見ることが有効です。タブレット端末で録画すると、物質の変化を繰り返し 確認することもできます。 Q11:体育や部活動等での支援には、どのようなものがありますか。 【見えにくさに配慮した支援】  ・弱視児の中には、まぶしさを感じる子どもたちが多くいます。帽子や遮光眼鏡を   使用したり、体育館では、窓からの光を調節したりする等します。  ・遠く離れると、人の表情を判別したり動きを模倣したりすることが難しくなります。   教員は、演示の内容を具体的に言葉でも伝える、笛を有効に使う等すると指示が   明確になります。  ・言葉で伝える時には、こそあど言葉を使用せず、「ステージ側に集合します」   「2歩右に動いてください」等と、具体的に指示することで安全に移動できます。  ・体操やダンス等は、習得するまでは近くで見本を示したり言葉で補足したりする等   して指導します。作成した動画教材をタブレット端末で提示することも有効です。 【教材・教具の工夫】  ・ボール(鈴入りボール、見やすくしたボール)  ・ゴールで音源(太鼓、鈴等)を鳴らす、ゴールに電子音のチャイムを吊る等して、   聴覚的な情報も取り入れます。 【安全に配慮した指導】  ・チームに分かれて行うゲームでは、見分けのしやすい色のビブスを着用する、帽子を   被る等して、相手チームと味方チームの区別ができるようにします。  ・ボールを投げるのではなく、転がす等してルールを変更することも有効です。  ・ネットの支柱には防護カバーをつけ、衝突の衝撃を防ぎます。 【特に配慮を必要とする眼疾患】   眼疾患によっては、特に安全面への配慮が必要な場合があります。保護者、眼科医、  養護教諭、担任等が連携して情報を共有し、本人とも確認をしながら安全に運動する  ことが大切です。  (例)   ・ボールの衝突や顔面への打撲等による眼球への衝撃を避けるため、保護めがねを    装用する。   ・鉄棒での懸垂のような力む運動や倒立等によって眼圧が上昇する運動に注意する。   ・激しい動きや高いところから飛び降りる等の運動は、網膜剥離を起こしやすい    リスクがあることをふまえ、対応を検討する。 Q12:歩行に関する支援には、どのようなものがありますか。  視覚に障がいがあることで生じる困難さのひとつに「移動」があります。目的地や そこに至るまでのルート、常に変化する周囲の状況等を見て判断することが 難しいからです。  経験を重ね、移動への不安感を克服していくことも求められます。そのため、 それぞれの見えにくさや発達段階、今後の目標に応じた歩行指導が必要となります。 【手引きによる歩行】   視覚障がい児・者が、手引き者の肘上や肩を持って誘導してもらいながら歩く  方法です。対象者が低年齢や見えにくくなって間もない時期は、手をつないで  歩くことで移動への不安感を軽減していき、少しずつ一般的な手引き歩行の方法を  指導していきます。ただ誘導されるのではなく、手引き者の動きから周囲の状況を  判断したり、自分から情報収集をしたりすることができるよう段階的に支援していく  ことが必要です。 【手すりや壁を伝いながら歩く歩行】   主に屋内を歩行するときに使用する方法です。手すりや壁を手で伝いながら繰り返し  歩き、教室や廊下等の環境を把握していきます。加えて、“右側通行”“伝いながら  歩く箇所にものを置かない”“ものを置いたり移動させたりする場合は周知する”と  いうようなルールを園や学校で徹底することで、見えにくくても自分で移動することが  できるようになります。 【白杖による歩行】   視覚障がい児・者が携行する白い杖を「はくじょう」といいます。白杖には、3つの  役割があります。  1つ目は「バンパー」です。白杖を体の下前方で振りながら歩くことで自身の身を守る  ことができます。2つ目は「センサー」です。白杖で探索することで、これから  歩行しようとする場所の状況を知ることができます。3つ目は「シンボル」です。  白杖を携行することで、視覚障がい児・者であることを周囲に知らせることが  できます。白杖を操作しながら歩行するためには、安定した歩行姿勢や白杖の振り、  周囲の状況把握と情報収集等、様々な能力を身につける必要があります。自立活動の  時間での練習はもちろん、普段の学習や生活の中での学びを歩行に生かして  いくことが、屋外での白杖歩行の基礎となります。 Q13:視覚認知面での困難さに対する支援には、どのようなものがありますか。  目で見たものを脳で処理し必要な形で出力する、「視知覚」や「視覚認知」面に 困難さを抱える子どもたちがいます。具体的な困り感としては、  ・ひらがな、カタカナ、アルファベット、漢字等の文字を覚えるのが苦手  ・文字を書くのが難しい  ・文章を読むのがたどたどしい  ・読み飛ばしが多い  ・黒板や教科書等のどこを見れば良いのかわからなくなる  ・枠や行に文字を収めながら書くことが難しい  ・板書をノートに写すのに時間がかかる  ・図形の問題が苦手 等があげられます。  このような困り感に対しても、まずは視力や視野等の視機能に問題がないかを 確認することが大切です。眼科を受診すると、治療や眼鏡による矯正が必要である ケースが少なくありません。  その上で、視知覚発達検査を実施し、子どもたちがどの部分に困難さを 抱えているのかを調べます。視知覚発達検査には、フロスティッグ視知覚発達検査や、 WAVES等の検査を用います。  検査結果を分析し、「目と手の連動」「形と位置、方向」「視線の移動」 「図と地の弁別」等、どの部分に苦手さがあるのかを明確にします。そして、 その苦手な部分を補うような課題に取り組むことで子どもたち自身の能力を 伸ばしていきます。併せて、教材の工夫や使いやすい教具やアプリの活用等、 子どもたちが学習しやすい環境を整えていくことも不可欠となります。 Q14:本人の障がいの理解を進める支援には、どのようなものがありますか。  視覚障がいは、見えにくくなった時期、見えにくさの状況、今後見えにくさが 進行するかどうか等が多岐に渡ります。そのため、まずは自身の見えにくさについて 正しく理解することが必要となります。  眼球構造やものが見えるしくみ等を学習し、なぜ自分が見えにくいのかを 知る機会を設けます。 また、他者との見え方の違いを知ることが、自己の見えにくさを理解することにも つながります。さらに、見えにくさや支援して欲しいことを相手に伝えるための カードを作ったり、シミュレーションレンズやアプリを 使用して見えにくさを相手に体験してもらったりすることも有効です。  年齢や発達段階によって障がいの理解の深まり度合いが異なるので、繰り返し 学習することも大切です。  また、同じ障がいのある先輩との関わりの中で、学習や生活の工夫を知ったり、 将来への見通しのひとつを得たりすることもあります。 【コラム:サマースクール ~中学生、高校生、大学生の座談会~】   本校では、地域の学校に通う小学生から高校生を対象にサマースクールを  実施しています。見えにくくても主体的に活動することができるように工夫した  活動や、友だちや先輩との座談会を通じて自分自身や障がいと向き合う機会と  なっています。   見えにくさのある中学生、高校生、大学生を集めて実施した座談会では、  中学生や高校生から、大学生活を送る先輩たちに対し様々な質問が飛び出しました。   「入試までに身につけておいたほうがいいことにはどんなことがあるか?」  「大学入試の際の配慮申請はどのようなことを依頼したのか?」  「一人暮らしをする家はどのように決めたのか?」「大学の講義の資料は  どのようにして読んでいるのか?」というような質問に対し、大学生からは  「パソコンやタブレット端末を活用できる力を身につけておいた方がいい。」  「日程に余裕をもって引っ越しをし、最寄り駅の周辺の環境を把握したり、  公共交通機関の利用の仕方を練習したりした。」というような、具体的なアドバイスが  聞かれました。   見えにくさのある者同士だからこそわかり合える“あるある話”も飛び出し、  座談会はとても盛り上がりました。 Q15:学校行事における工夫や配慮事項には、どのようなものがありますか。  それぞれの行事によって、人数(学級や学年、全校児童生徒)や活動場所(運動場、 体育館、校外)は様々です。体育館や運動場のような大きな空間に、日頃とは 異なる向きや隊形で集合したり、異学年のグループで活動したりすることもあります。 全体の動きは把握しづらいので、見通しをもって安心・安全に活動にするためにも、 事前に概要を知らせておくとよいでしょう。遠くで説明する人の動きや掲示物は 見えにくいので、日頃から遠用レンズやタブレット端末等の必要な視覚補助具を 活用できるようにしておきましょう。  また、火災や地震避難訓練等の緊急事態を想定した場面では、日常とは状況が 変わるため、一人で移動できる場所でも安全に注意して、誰かと一緒に移動するような 配慮が必要な場合があるかもしれません。集団での避難訓練とは別に、個人で避難経路を 確認する機会をもつ、もしも避難経路がわからないところで取り残された場合には どのようにして助けを呼ぶかを、練習したり教員間で情報共有したりしておくこと等も 大切です。 【コラム:避難訓練】   小学校の弱視学級でのできごとです。避難訓練で、弱視のAさんは交流学級の  児童と共に避難する予定でした。   しかし、いくら待ってもAさんは来ません。それどころか、一列に並んでいるはずの  Aさんから後ろの児童たちも来ません。   急いで捜しに行くと、Aさんは別の学級の児童について行ってしまっていました。  全校生徒が同じ体操服を着ている中で、Aさんはついて行く友だちを見間違えて  しまったようです。   このことをきっかけに、緊急時は教員が手引きで誘導することをAさんと教員間で  共有し、友だちにも「助け合おうね」と話をすることができました。 Q16:進路指導は、どのように進めればよいでしょうか。  視覚障がいのある生徒の高等部普通科卒業後の進路には、進学、就職、 障がい福祉サービスの利用等があります。  進学では、大学や短期大学の様々な学部や学科、専門学校、あん摩マッサージ指圧師、 はり師、きゅう師になるための専門教育を行う専攻科等があります。大学等の 入学試験では、配慮申請によって時間延長や出題方式の変更等の対応が行われています。進路指導として、「自分の関心や将来の希望を明確に描くことができるようにする」 ために障がいの状況を含めて自分自身について知ることや、社会に関心をもつこと、 どのように調べるかということ等が必要です。学びたい分野や合格の可能性等を考えて 進学先を選ぶことが多いですが、希望する分野によっては、配慮申請を行うより早い 段階から、その分野で学ぶべき内容を十分に学習すること、履修することが現実的に 可能かどうかといった検討や協議の必要があります。また、入学後の学生生活(通学や 学内の移動、受講等)についても障がい学生支援の状況を理解しながら 必要な配慮の依頼をします。  あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師になるための専門教育を行う 専攻科等では、修了すると国家試験受験資格が得られ、国家試験合格後の進路として 自分で鍼灸やマッサージ治療院を開業する他、鍼灸マッサージ治療院、病院、高齢者の 施設等への就職があります。また、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の 国家資格を取得すれば、筑波大学理療科教員養成施設へ進学し、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうを教える教員免許を取ることも可能です。  視覚障がいのある生徒を対象とした大学や障害者職業能力開発校もあり、大学等での 学びを就職に活かし、一般企業や公務員、教員、視覚障がい関係機関・福祉施設、大学・各種事務所等の職員等、様々な場で活躍をしています。  就職については、居住地の公共職業安定所(ハローワーク)や障害者就業・ 生活支援センター、障害者職業センター等の関係機関と連携を取りながら、就職に 向けての相談や就職準備のための支援、就職してからの職場適応のための支援を 受けることができます。就業体験を実施したり、障がい者向けの就職サイトを 利用したり、ハローワーク主催の面接会に参加したりして就職活動を行っています。  障がい福祉サービスの利用については、就労を希望する人に一定期間、就労に必要な 知識や技能の向上に必要な訓練を行う支援(就労移行支援)や事業所と雇用契約を結んで 訓練を行う支援(就労継続支援A型)等があります。利用をする場合には、居住地の 市町村役場の障がい福祉の窓口への申請が必要となります。地域の相談支援事業所や 特別支援学校の進路担当に相談をしてください。  将来を見据え、社会生活や自立に向けた取組が必要です。日常に必要な生活動作や、 歩行、援助依頼、視覚補助具の活用等自立のための力を養うと共に自身の障がいについて 的確に説明して依頼したい配慮内容を適切に伝える力、情報機器活用能力、 情報収集能力、積極的に友だちや教職員とコミュニケーションをとれる力等を学齢期の 段階から養うことが大切です。 Q17:徳島視覚支援学校の職業学科で取得できる資格について教えてください。  本校の高等部には、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの学習をする 「手技療法科」、「専攻科手技療法科」、「専攻科鍼灸手技療法科」の3つの学科が あります。 これらのことを通称「職業学科」と呼んでいます。  これらの学科は、それぞれ入学資格と卒業後に取得できる資格が異なります。  「手技療法科」では、高等学校卒業資格も併せて取得することができるため、 中学校卒業が入学資格になります。卒業後はあん摩マッサージ指圧師の 国家試験受験資格が得られます。  「専攻科手技療法科」は、高等学校卒業が入学資格となります。卒業後は あん摩マッサージ指圧師の国家試験受験資格が得られます。  「専攻科鍼灸手技療法科」は、高等学校卒業が入学資格となります。卒業後は あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験受験資格が得られます。 いずれの学科も修業年数は3年です。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師は 国家資格ですので、資格取得には3年間の学習を修め、国家試験に合格する必要が あります。  入学される方には、一度社会に出ている人が多く、10代から60代まで年代は 幅広いです。また、網膜色素変性症、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、緑内障等眼疾患も 様々で見え方もそれぞれ異なります。このように、年代・見え方の異なる人が一緒に 資格取得に向けて学んでいます。 4 相談・支援の実際   ~視覚障がい教育のセンター的機能の紹介~  本校は、徳島県下全域に対する視覚障がい教育のセンター的機能を担っており、 乳幼児から成人に対し、次のような支援活動を行っています。費用等は必要ありません。 相談依頼、研修依頼ともに、お気軽にお問い合わせください。 【相談支援】 1.巡回相談   特別支援教育巡回相談員が、園や学校等を訪問し、相談活動を行います。  保育や授業の様子を観察したり教育的視機能評価や視知覚発達検査を実施したり  することで、対象者の困り感やその要因を探ります。また、本人や保護者、担任等に  対し、活用できるツールを紹介したりこれから取り組んでみて欲しい課題等について  提案したりしながら、支援を考えていきます。必要に応じて、来校相談につなげたり、  関係機関と連携したりしています。 2.来校相談   本校に来校していただき、より詳細な教育的視機能評価を実施したり、視覚補助具の  使用練習をしたりします。保護者同士のつながりの場を作ったり、就学先や進路に  ついていっしょに考えたりすることもあります。   対象者の状況に応じ、来校回数や頻度等は異なります。   ※巡回相談や来校相談での相談内容を共有したり、今後の支援について話し合ったり    するために、在籍園・校の担当者が来校したり在籍園・校を訪問したりして    ケース会議を実施したりすることもあります。 【研修支援】    視覚障がいの理解や視覚障がい教育の啓発を目的とし、児童生徒の学習や  教職員・保護者等に対する研修の講師を担っています。例として、下記のような内容で  研修支援をしています。  1.視覚障がいのある当事者による講演    視覚障がいのある本校教員が、自身の体験や社会に対して望むこと等を   講演します。  2.見えにくさの体験    アイマスクやシミュレーションレンズ等を用いた見えにくさの体験をすることで、   どのような支援が必要か、バリアフリーやユニバーサルデザイン等について   考えます。  3.点字体験学習    点字を実際に打ってみたり、見えない見えにくい人が使用するグッズを体験したり   することで、視覚障がいについて考えます。 5 視覚障がい児・者も楽しむことができるスポーツの紹介 【徳島県グランドソフトボールクラブ】   グランドソフトボール(令和8年度より「ブラインドベースボール」と  改称予定)とは、地面を転がるボールの音を頼りにバットで打つ、視覚障がい者の  野球です。ハンドボールのようなボールを使用し、10名1チームで競技します。   「徳島県グランドソフトボールクラブ」は県内唯一のチームで、毎年行われる  全国身体障害者スポーツ大会に向けて、練習に励んでいます。  練習は、徳島視覚支援学校のグラウンドで、毎週日曜日の朝10時から夕方4時まで  行っています。   詳しくは、徳島県グランドソフトボールクラブのFacebookをご覧ください。 【阿波を共に走る会】   視覚障がい者マラソン&ウォーキング練習会の「阿波を共に走る会」です。  阿波(徳島)で、視覚障がいランナー&ウォーカーが、伴走・伴歩者と共に  ランニング&ウォーキングを楽しみ、会員相互の親睦や交流を図るクラブです。   練習会は、毎週日曜日の朝9時より開催しています。会場は、徳島中央公園で、  1周約2㎞となるコースを設定しています。   ランニングやウォーキングに興味のある視覚障がい者の方、伴走・伴歩に  興味のある方はお気軽にご連絡ください。伴走・伴歩の経験がない方には、練習会で  簡単な説明を行います。  〈HPアドレス〉    視覚障がい者マラソン&ウォーキング練習会 阿波を共に走る会     https://awa-tomo.jimdofree.com/ 【阿波ZARU】   阿波ZARU(あわざる)は、徳島で視覚障がい等の障がいのある人もない人も  一緒に楽しめる交流型クライミングイベントを開催する団体です。   クライミングは障がいのある人もない人も同じルールで楽しめるスポーツです。  視覚に障がいのあるクライマーは、壁の手がかりの様子を、見える人から聞きながら  登ります。障がいのある人もない人も、自分のペースで自分の目標に向かって  クライミングを楽しんでいます。  〈HPアドレス〉    阿波ZARU | Facebook     https://m.facebook.com/awazaruclimbing/?_rdr 6 関係機関の紹介 【教育関係】  ・徳島県教育委員会特別支援教育課    https://www.pref.tokushima.lg.jp/kenseijoho/soshiki/kyouiku/    tokubetsushienkyouikuka/  ・徳島県立総合教育センター特別支援・相談課    https://www.tokushima-ec.ed.jp/tokusou 【福祉・専門機関】  ・徳島県立障がい者交流プラザ視聴覚障がい者支援センター    http://www.kouryu-plaza.jp/sc-center/  ・徳島ロービジョンネットワーク    http://www.gankaikai.or.jp/lowvision/20170615_tokushima.pdf 7 指導に役立つサイト 【視覚障がい教育全般】  ・文部科学省 https://www.mext.go.jp  ・文部科学省 特別支援教育 https://www.mext.go.jp/a_menu/01_m.htm  ・独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 https://www.nise.go.jp/nc/  ・筑波大学 特別支援教育 教材・指導法データベース http://gakko.rdy.jp/kdb/  ・氏間研究室のホームページ(視覚障害教育に関する研究室)    https://home.hiroshima-u.ac.jp/ujima/src/index_j.html  ・視覚障害児の発達と教育の探究 佐島研究室 https://office-sashima.org 【音声教材およびPDF版拡大図書】  ・マルチメディアデイジー教科書(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)    https://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html  ・AccessReading(東京大学先端科学技術研究センター)    https://accessreading.org  ・音声教材BEAM(NPO法人エッジ)    https://www.npo-edge.jp/use-edge/beam/   ・ペンでタッチすると読める音声付教科書(茨城大学)    http://apricot.cis.ibaraki.ac.jp/textbook/  ・UD-Book(広島大学)    https://home.hiroshima-u.ac.jp/ujima/onsei/index.html  ・UNLOCK(愛媛大学) https://ehimeuniv-cie.jp/unlock/  ・UDブラウザ(慶応義塾大学)    http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/app/UDB/ 【教材・教具の購入】  ・社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 http://nichimou.org  ・社会福祉法人 日本点字図書館 https://www.nittento.or.jp/  ・社会福祉法人 日本ライトハウス https://www.lighthouse.or.jp/  ・社会福祉法人 埼玉福祉会 https://www.saifuku.or.jp/index.html  ・有限会社 ジオム社 http://www.gandom-aids.co.jp/ 【その他】  ・科学へジャンプ https://www.jump2science.org/  ・視覚障害リハビリテーション協会 https://www.jarvi.org/  ・SPAN(特定非営利活動法人 視覚障害者パソコンアシストネットワーク)    https://span.jp/  ・東京都障害者IT地域支援センター https://www.tokyo-itcenter.com/  ・見えない・見えにくいときにひらく シカクの窓 https://www.naiiv.net 8 参考文献  ○青木隆一監修/全国盲学校長会編著「見えない・見えにくい子供のための歩行指導   Q&A」ジアース教育新社  ○青木隆一・神尾裕治監修/全国盲学校長会編著「新訂版 視覚障害教育入門Q&A」   ジアース教育新社  ○青柳まゆみ・鳥山由子「新・視覚障がい教育入門」ジアース教育新社  ○稲本正法・小田孝博・岩森広明・小中雅文・大倉滋之・五十嵐信敬「教師と親の   ための弱視レンズガイド」コレール社  ○氏間和仁「見えにくい子どもへのサポートQ&A」読書工房  ○大川原潔・香川邦生・瀬尾政雄・鈴木篤・千田耕基「視力の弱い子どもの理解と   支援」教育出版  ○香川邦生「障害のある子どもの認知と動作の基礎支援-手による観察と操作的活動を   中心に」教育出版  ○香川邦生編著/猪平眞理・大内進・牟田口辰己共同執筆「視覚障害教育に携わる方の   ために」慶應義塾大学出版会  ○小林一弘「視力0.06の世界-見えにくさのある眼で見るということ」   ジアース教育出版  ○宍戸和成・古川勝也・徳永豊監修/小林秀之・澤田真弓編著「視覚障害教育の基本と   実践」慶應義塾大学出版会  ○芝田裕一「視覚障害児・者の歩行指導ー特別支援教育からリハビリテーションまで」   北大路書房  ○芝田裕一「視覚障害児・者の理解と支援 新版」北大路書房  ○下村昇「となえておぼえる漢字の本」(シリーズ)偕成社  ○鈴木基久「リズムでおぼえる漢字学習」清風堂書店  ○全国高等学校長協会特別支援学校部会・全国盲学校長会大学進学支援委員会・全国   高等学校長協会入試点訳事業部「シリーズ 視覚障害者の大学進学(1 入学試験/   2 大学生活/3 支援機器/4 就職/別冊 進路指導を担当される先生へ)」  ○徳島県保健福祉部障がい福祉課「徳島県 障がい者(児)福祉のしおり【通常版】   【別冊】」  ○鳥山由子「視覚障がい指導法の理論と実際ー特別支援教育における視覚障害教育の   専門性」ジアース教育出版  ○日本弱視教育研究会企画/香川邦生・千田耕基編者「小・中学校における視力の弱い   子どもの学習支援ー通常の学級を担当される先生方のために」教育出版  ○花熊曉・苅田知則・笠井新一郎・川住隆一・宇高二良監修/氏間和仁・永井伸幸・   苅田知則「見えの困難への対応」建帛社  ○道村静江「読み書きが苦手な子もイキイキ 唱えて覚える漢字指導法」明治図出版  ○宮本俊和・河合純一「視覚障害者のためのスポーツ指導」筑波大学出版会  ○茂木一司・大内進・多胡宏・広瀬浩二郎「視覚障害のためのインクルーシブアート   学習」ジアース教育新社 ※視覚障がいのある子どもたちの指導・支援に携わるすべての皆さまへ  社会が共生社会の実現に向けて歩みを進める中、視覚障がいのある子どもたちが 地域社会のかけがえのない存在として認められ、自立と社会参加を行うためには、 その指導・支援に携わるすべての関係機関の連携・協働が不可欠となります。 本リーフレットは、その一助となることを目的として作成しました。  それぞれの思いが一つになり、視覚障がいのあるすべての子どもと保護者が 安心して生活できることを願います。 徳島県立徳島視覚支援学校  〒770-8063 徳島市南二軒屋町2丁目4番55号  TEL. 088-622-6255   FAX. 088-622-0282  相談専用メールアドレス    tokushikaku_soudan@mt.tokushima-ec.ed.jp  学校ホームページ URL    http://tokushikaku.tokushima-ec.ed.jp  JR 牟岐線二軒屋駅下車、徒歩5分  徳島市バスまたは徳島バス  二軒屋駅前下車、徒歩5分、南二軒屋下車、徒歩5分 「視覚障がい教育 Q&Aリーフレット」 徳島県教育会研究指定事業活用 令和6年3月 以上